prologue
水玉の幻想

フラメンコといえば水玉模様?
そんなこと、誰が決めたのだろうか。
でもフラメンコの衣装には昔から、男女共に水玉模様が多くあしらわれている。
それどころか、フラメンコの公演のフライヤーからグッズに至るまで、「フラメンコである」ということを素早く人々にお知らせするための効果的な手段として、水玉模様はよく使われる。
けれどそれがどうしてなのかは、おそらくそれを使っている本人を含め、誰も意識していない。
なるほど確かに、この模様はとてもジプシーらしいものとして、「歴史的に迫害を受け続けてきたジプシーたちの涙である」などという、もっともらしく、そしてロマンチックな理由を説明として付け加えられることがある。
そしてそのジプシーがフラメンコを創り出したがゆえに、フラメンコではこの模様を用いたジプシーの衣装を身にまとうのだと。
だがもともと、「各地を放浪し、現地で手に入れることのできたものを身につける」といった生活を長く続けてきたジプシーたちに、固有の民族衣装というものはないのだ。
そういう意味で、水玉模様=ジプシーの衣装というのは、事実に反している。
けれども人々はこのイメージを魅力的と感じ、神話や伝説のようにも見えるこの話を口伝えにして楽しみ、味わっているのである。
スペインやフラメンコにまつわるこのようなイメージは、他にも沢山あげられる。
スペインは異国情緒に溢れた、情熱と闘牛とフラメンコの国であるということ。
スペイン女性といえば黒髪に黒い瞳に浅黒い肌を持ち、エキゾチックな神秘性と官能性をたたえた、ちょっと挑発的な魅力を放つジプシーのような女性であるということ。
フラメンコはジプシーの血族たちの間で内密に創られ、口伝で引き継がれてきた秘教的なものであり、選ばれた地に生まれ、選ばれた血、選ばれた者たちによってしかその本質に触れることができないのだということ。
これらの数多くのイメージは、どこからやってきたのだろうか?…
この先は本書にてお楽しみください。
