ガデスの娘たち
Flamenco al Aire
ローマの人々が呼ぶ「ガデス」とは、アンダルシアの港町カディスのこと。
とはいえ、彼らにとっては本当に彼女たちがアンダルシア生まれかどうかということは関係なく、ただ単にローマの方向から見てとりあえずカディス方向、つまりざっくりアンダルシアの辺りの娘であればそれでよかった。
ローマでの彼女たちの人気ぶりはかなりのものだった。
長い船旅のつれづれに、富裕階級の夜の宴に、戦の凱旋祝いに。
特定の館に召し抱えられることもあれば、必要に応じて市内の家を渡り歩いたり。
それどころか飢饉で生活が立ち行かなくなりあらゆる外国人が追放された時ですら、ローマの人々はアンダルシアからやってきた芸人たちだけは手放さなかった。
彼女たちはローマの時代よりももっと遥か以前から抒情詩を歌うことを知っていて、金属製のカスタネットを操り、「いたずらでふざけ屋の足」で陽気に踊る。
そして調子良く声を合わせ、喝采を浴びながら腰をふるわせ、地面に届くばかりに身を屈めて、見る者に官能の疼きを目覚めさせるのである。
もともとローマ社会とは、謹厳さ、真面目さを重んじる社会である。
だから彼女たちの魅力を十分に承知しつつも、「私自身の住まいには、このような愉しみごとは寄せ付けない」と宣言する者たちもいた。
けれどもガデスの娘たちの存在は、アンダルシアに古の時代から歌や踊りの文化が存在し、しかもそれが「アンダルシアといえば歌と踊りの上手い官能的な娘たちがいる」というイメージがすでに存在していたということを示しているのである。
それはまるで後世に、「アンダルシアといえば魅力的なジプシーの踊り子たちがいる」といったイメージが生まれるのを、すでに予見しているかのようである。

